2012年10月16日火曜日

真の風と見かけの風

ヨットは風上に向かって45度の角度で帆走することができます。

でもこのとき、ヨットの上についている風見は45度の方を向いてません。
ヨット自体が前に進んでいるので、その動きによる向かい風と「真の風」とが合成された方向に風見は流れます。
この合成された風を見かけの風と言います。

なので、ヨットが風上に対して45度の方向に進むとき、見かけの風(風見の向く方向)は45度ではなく、それよりも前から風が来ているように見えます。普通は。

特に風上に向かうときはこの見かけの風に惑わされず、真の風に対して45度の方向に船を向けないといけないわけです。
ただ、セールのトリム(風が前に回るほどセールを引き込み、後ろに回るほど出す調整)においては、セールが受けている風というのは合成された結果の見かけの風なので、見かけの風に合わせてセールを出し入れします。

普通は、みんな見かけの風を頼りに真の風を推し量り、船を真の風に対して正しい方向に向けることができます。
ただし、普通でない場合というのがありまして。

真の風よりもボートスピードの方が高い場合なんですね。

普通ディンギーのボートスピードは真の風よりも低いのですが、これが逆転してしまう場合がいくつかあります。
  • 強風時にプレーニング(モーターボートのような滑走状態です)している場合
  • 微風時にロールタックした後
  • 微風時にブロー(風のあるとこ)からラル(風のないとこ)に入った場合
  • 微風/軽風で波(うねり)が大きい場合
上記の一つ目は、「俺っち速過ぎて風を追い越しちまったぜヒャッハー」的な感じでわかりやすいと思いますが、二つ目以降はちょっとやっかいです。順に説明します。


■微風時にロールタックした後

タックというのは、風上45度に進んでいるときに、 進行方向を風上に向かって90度回転させる動きのことです。
これによって、右45度から風を受けていたのを左45度にしたりまたその逆にして、風上に向かってジグザグに進んでいきます。(ジグザグ線の直角部分の動きです)

しかし、タックをすると船が減速しやすいため、それを防ぐために、ロールタックと言って船を意図的に大きく傾けて(ロールさせて)、それを体の動きで元に戻すことで推進力をつけるテクニックがあります。

このロールタックによって推進力を得ている間は、見かけの風は前にまわります。
そして推進力がなくなるにつれ、徐々に後ろよりになって、タック前に普通に帆走していた時と同じ角度を示すようになります。

ロールタックをすると、真の風に対して45度に向いていたとしても見かけの風が前に回るので、予想外にいいロールタックができてしまった場合などは(笑)、真の風が前に回ったと誤解してしまうかもしれません。

※もし真の風が変化していると、 「風のフレとマークまでの距離の変化」で話したようなことがおきますので、その変化によって損をしないよう即タックしないといけなかったりします。

微風時は真の風が大きく変化することがよくあるので、特に誤解しやすいんですね。



■微風時にブロー(風のあるとこ)からラル(風のないとこ)に入った場合

風があるとこを走っている船が、風のないとこに入ると、これもロールタック後と似た感じで、しばらく惰性を保って進んでから徐々に減速して、風のないとこなりのスピードに落ち着きます。

ここでも、風のないとこに入った瞬間は見かけの風が前に回りますので、真の風がフレたと見誤ってしまうことがあります。


■微風/軽風で波(うねり)が大きい場合

私の中で今いちばんホットなのがこのパターンです。

私の練習している海面だと、微風から軽風(4m/sくらい)で高低差3,4mのうねりが船に向かってきて船の下を越えて行くと、見かけの風が90度近く変化し、元の向きに戻ります。うねりが来る度に周期的にそういう変化が生じるんです。

この時も、突然風向きが変わったように感じられるのですが、そこで船の向きを見かけの風の変化に合わせて大きく変えてしまうと、微風下では船がなかなか機敏に動かないため、見かけの風が元に戻るタイミングで風上を向けすぎた状態になり、結果的に失速することがあります。

うねりを越えるときに見かけの風が変化する理由は私もよくわかりません。見かけではなく真の風が変化しているという人もいますが、先日聞いた話では「船がうねりに押されていく勢いで見かけの風が変化する」そうです。

そして、波(うねり)は「だいたい」風上から風下に向かってやってくるのですが、風とぴったり同じ方向ならまだしも、それが少しずれてたりするんですね。
するとどうなるかというと、
左から風を受けている時と右から風を受けているときで、見かけの風の変化の仕方がちがう
ことになります。

例えば、左から風を受けていると、うねりを越えていくとき、うねりの頂上で90度後ろに回って(この時風速も1,2m/s上がります)、その後元に戻るのですが、このリズムだとうねりの頂上で加速しやすくて、まだ比較的走りやすいんです。
船にスピードがついていれば機敏に動いてくれるので、その後見かけの風が元に戻る変化にも合わせやすいんですよ。

しかし、右から風を受けている状態になるとこれが逆転しますので、うねりの頂上で90度前に回ってその後元に戻る、というリズムになります。

これがなんとも走りにくいんです。パワーを感じられなくて。

もちろんこの場合も、見かけの風の変化にまどわされやすいことは言うまでもありません。




2012年10月1日月曜日

風のフレとマークまでの距離の変化

突然マニアックな話になりますが、ヨットレースは風のフレをうまく使えるかどうかで順位が大きく変わります。
まずは図1をみてください。

図1
4艇のヨットが図の上方にある赤い丸(以下マークと呼びます)をめざして進んでいます。

風は図の上方から吹いており、各ヨットは右斜め前から風を受けながら、風に対して45度の方向に進んでいます。

ヨットは風に対して45度にジグザグに進んでいけるので、図のグリッド線に沿って進むことになります。

この時、グリッドの実線1マスを1BL(BoatLength:艇身)とすると、各艇のマークまでの距離は
  • 白艇:4BL
  • 赤艇:6BL
  • 緑艇:6BL
  • 黄艇:8BL
となります。
白艇と赤艇は頭を並べていますが、2BLの差があるわけです。
一方、赤艇と緑艇は一見すると赤艇が先攻しているように見えますが、実はマークからの距離は同じです。


ここで、一瞬にして風が 20度画面左方向にフレました。とします。

風の向きが変わると、ヨットはその風に対して45度で進むことになるので、すると図2のようになります。

図2
各艇のマークまでの距離は
  • 白艇:3.75BL
  • 赤艇:5BL
  • 緑艇:6.25BL
  • 黄艇:7.5BL
となっています。

図1で2BLあった白艇と赤艇の差が、図2では1.25BLに縮まっており、
逆に白艇と緑艇の差は2BLから2.5BLに拡がっています。
また、イーブンだった赤艇と緑艇は赤艇が1.25BL先行しています。

実は白艇と黄艇の差もわずかに縮まっています。
一般に市販されているテキストなどでは白艇と黄艇の差は変わらないとされていますが、図4を見ればわかるとおり、こちらが正しいです。


ここで再び、一瞬にして風が40度画面右方向にフレました。とします。(図1からすると20度右方向です)

図3

各艇のマークまでの距離は
  • 白艇:3.75BL
  • 赤艇:6.25BL
  • 緑艇:5BL
  • 黄艇:7.5BL
となりました。

白艇と黄艇の差は図2と同じですが、
赤艇と緑艇の関係が変わっており、今度は緑艇が先行した状態になっています。


どの図においても各ヨットは何もせずただ風に対して45度でいただけなのですが、風がどちらに(どれだけ)フレるかで、順位を上げたり落としたり、差が縮まったり拡がったりしています。

この性質を利用して得をするには、
「集団よりも風が次にフレる方に近い方(図2なら左、図3なら右)に位置するようコースをとる」
ということになります。

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 かなりどうでもいいレベルでマニアックなおまけ:白艇と黄艇のフレによる差の変化

図4

常識的には、図1で白艇と黄艇のような位置関係にある場合、図2や図3のように風がフレても両艇の差は変わらないとされる。

しかし、「風がフレても白艇と黄艇の直線距離が変化しない」ということが言われているなら、それは無意味だ。図1~4において全ての船の直線距離は変化していない。
※舵社「ヨットマンのためのためのレーシングタクティクス虎の巻」P39ではまた異なる説明の仕方で「高さが変わらない」と図を用いて説明されているが、図で抑えられている方の船のポテンシャルラインを見ると、左右に振れた時のラインは中間の時よりも明らかに下がっており(幾何学的に当然だ)、左右に振れた時に差が縮まる事を示している。


実際、図2においても図3においても、差は変化している。図5でよりわかりやすく示した。

図5:黄艇のポテンシャルラインに注目。



これが図の誤りや誤差でないことは、図4を見れば明らかで、図1では4艇身あった差が図4では3艇身に縮まっており、黄艇は45度のフレで1BLゲインしている。

さらに、これは図4のように右方向にフレた場合でも、逆に左方向に45度フレた場合でも同じなので、
白艇はライバル艇を風軸下に置くと
どちらにフレても差が縮まる
ということが言える。

逆に言うと、図4(は極端だが)や、あるいは図3のようなフレきった状態から図1のようなフレの中間にもどるまでの間は、差が拡がり続け、中間から図2のように反対にフレきるまでは再び差が縮まっている。

・・・ということは、
追いかける黄艇視点で見れば、
最も白艇との差が縮まる「フレきったタイミング」で白艇の風軸線上に戻ってくるようなコース取りを繰り返せば、徐々に白艇との差を縮めていけるということにならないだろうか??

常識的には、フレが周期的な場合はフレ幅の中間でタックするのが最もマークに近づくので、上記の仮説はにわかに信じがたい。今回の図では各艇がまったく動かず、風が一瞬で変化する想定だったので、上の仮説を検証するにはまた別な図をひく必要があるだろう。

念のため付記しておくと、
ライバル艇を風軸下で抑える行為が無意味というわけではない。
風軸からずれた位置にいると、ライバル艇側に風がフレた時に差が縮まる量がより大きくなるからだ。
だから、ライバル艇を風軸下でおさえた場合、
どちらにフレても差が縮まるが、他の位置関係よりフレの影響が少ない
というあたりが正確だろう。